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山奥の村・西米良の魅力はこれからのリアルライフ
〜コロナ禍に発見した“天空の暮らし”〜②

中武 洋文さん(41歳/横野地区)

村内にコンビニは1軒もない。育ち盛りの子どもがいる家庭は週末に片道30分以上かけて買い出しに県境を超える。そんな西米良での生活を想像した時、誰しも「不便」の2文字が頭に浮かぶのではないだろうか。
しかし、山暮らしが「不便」と嘆く時代は終わった。今回の主人公・中武洋文さんの話を聞くと、西米良の暮らしは利便性にも勝る最高のアトラクションワールドだと思えてくる。

“頑張って”ショッピングモールへ通った、かつての休日

西米良の名産品・柚子を中心に、ほおずきや米などを生産する中武ファーム二代目・中武洋文さん。ヒット商品「天空の柚子胡椒」の誕生で、農家として、また経営者として忙しい毎日を送っている。

その「天空の柚子胡椒」誕生ストーリーはこちらの記事から。
・中武洋文さん①「苦悩をチャンスに変えた“天空の柚子胡椒”誕生ストーリー」

取材に訪れた際、目に止まったのがこちら。

洋文さん宅のそばには、四角いパイプの枠(写真中央)がある。農作業で使うものなのか? これは一体何だろう?

「そこにスクリーンを張ってプロジェクターで映画を観るんですよ。山や星空と一体になって、なかなかいいんですよ」

洋文さんがさも当たり前かのように教えてくれたそれは、スクリーンを張るための枠だった。小学生と年中さんに成長した二人の息子たちのためはもちろん、家族や友人たちと楽しむために設置したそう。自宅でこんな映画上映ができるなんて、スケールの大きさに驚かされる。

▲夜に開催した自宅での映画鑑賞の様子。映画館とは違った迫力・臨場感が味わえるそう(中武洋文さん提供)

「コロナになって、遊び方が変わりましたね。いやぁ、住んでる場所がこんなに楽しめる場所だなんて」

洋文さんの家族は、以前は休日の過ごし方が全く違っていた。車で1時間半はかかるであろう宮崎市内のショッピングモールまで足をのばした。
子どものため「頑張って」行っていたそう。

動けないなら、ここで遊ぼう!

2020年、2021年と新型コロナウイルス感染拡大により、そんな休日の過ごし方ができなくなった。西米良村はなんと、2022年3月現在までコロナに罹患した人はゼロ。だからこそ余計に、外との往来に村民は最大限の配慮をしている。

「コロナで動けないなら、自分の敷地で遊ぼうと思って。改めてこの環境を見直したら、楽しめることだらけで(笑)」

取り出したスマートフォンには、洋文さんがロープと丸太で手作りしたブランコで遊ぶ子どもの動画が納められていた。自宅の周囲に広がる雑木林では四季折々の花や山菜が楽しめ、少し工夫すれば、誰にも邪魔されない絶好の遊び場が作れるという。

そのブランコのある場所まで、連れて行ってもらった。

▲取材に同行してくれた役場職員の黒木さん(写真/右)。プライベートでは家族ぐるみの付き合いだという

不確実な世の中で見えてきた、山暮らしの魅力

山の斜面に立つ自宅からさらに上へ行くと、柚子畑や雑木林が広がる。隣の家もなければ、通る車もない。

そんな林の中に、木と木を結んだスラックラインと、高さ5〜6メートルはありそうな所からぶらさがった、ロープと丸太のブランコがあった。

友人家族がやってきては一緒にこの手作り遊具で遊んだり、バーベキューをしたり。春はタケノコを採ってきて、皮むき作業も遊びながら。 この大自然さえあれば、子どもたちはいつまでも遊んでいると言う。
これが全て、自宅の周りで誰に気兼ねすることなく楽しめるとは、なんとういう贅沢。洋文さん家族が時間をかけて人混みに出かける回数は激減した。

▲ブランコの乗り方を手ほどきする洋文さん。乗ってみると想像以上にスリリング!

▲四季折々の自然が美しい。自宅周辺での遊びの様子(中武洋文さん提供)

「我が家の周りをプライベートなキャンプ場みたいにしたらいいね、って話しているんですよ」 という洋文さんの言葉に、そばで話を聞いていたご両親もうなずく。キャンプ場構想は決して夢物語ではなさそうだ。

▲中武洋文さんと父・勝文さん(写真/中)、母・祥江さん(写真/左)

コロナで気づいた、かけがえのない山村の魅力

コロナで生活が一変し、改めて身の回りを見直した時、他にない最高の遊び場がここにあった。それに気づけたことは、コロナの“おかげ”なのかもしれない。

近くで手軽に買い物ができなくても、インターネット環境さえあれば、ECサイトでボタンをクリックするだけで何でも手に入る。そういった点で西米良にいて不都合を感じることはないと洋文さんは話す。山暮らしの「不便」さは、もはや十分な許容範囲と思える。

オンラインでのコミュニケーションが増えた今日、リアルな体験こそかけがえのない時間。
ICTの恩恵を生活に上手に取り入れつつも、自然の恩恵をいっぱいに味わいながら子育てを楽しむ“天空の暮らし”がここにある。

▲写真は中武洋文さん提供

取材・文:矢野由里(dig edit & design)
撮影:中山雄太(KOYU DESIGN STUDIO)