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米良愛ギラギラ 後編
『村と自身のこれから』

濱砂 裕晃紀さん(40歳/村所地区)

村人をつなぐ神楽

これまで幾度となく西米良を訪れている筆者だが、“故郷への想い”がほかの町や村の住民と比べて非常に大きいと感じている。その理由はどんなところにあるのか、裕晃紀さんに訊ねてみた。

「何がいいのかよくわかりませんけど、暮らしという視点で見ると魅力しかないですよ。みんな子どもの顔を知っているので安心して子育てできるし、山あり川ありで環境もいい。これで仕事があれば本当にいい場所なんですが。帰って来たくても仕事がないから帰れないという若い人も多いけど、“仕事がないから”と親が止めるケースもあるようです。もちろん、本当は帰って来て欲しいんでしょうけど」

「それとやっぱり神楽かな。僕も社人(神楽の舞手のこと)なんですけど、西米良にとって神楽は切っても切れない存在です。村には高校がないので、中学校を卒業するとみんな村外に出ていくんですけど、神楽の時には帰ってくる。神楽が村の人をつなげているんですよ」

▲神楽を舞う裕晃紀さん(左から2人目)

「僕が神楽を始めたのは小3の時だったんですけど、子どもにとって大人に混じって神楽を舞うことはとてつももない憧れなんですよ。ただ、神楽の世界は本当に厳しい。完全なる年功序列の世界ですし、教わるというよりは、大人たちの所作を見て学ばなければならない。先輩たちと一緒に一つの舞台をつくっていく中で目上の人への接し方や神様に対する敬意を学んでいく。神楽を通じて人として学んでいくわけです。ちなみに僕の先生は鬼と言っても過言ではないほどの厳しさでした(笑)」

▲林業家歴40年長の父親の力を借り、林業従事者の育成にも力を入れている

二番じゃだめ、なんでも一番がいい

さまざまな事業を行っている裕晃紀さん。村では先述(前編)のSTELLA SPORTSに加えて林業を行なっているのだが、近い将来、大きなチャンスがやってくると見込んでいる。

「衛星を活用したインターネットが普及すればどこだろうと回線がつながるようになるので、林業機械の自動化が可能になります。建設の現場は電波が届く場所が多いので機械の無人化が進んでいるが、林業の場合、多くの現場が電波の届かない山間部なので自動化が進んでいないんです」

「自動運転の機械が発売されたら、どれだけ値段がしようとどこよりも早く導入しますよ。それでバンバン村で人を雇用する。西米良にいながらにして北海道の仕事ができるようになるんですから。その上で、西米良には自動化林業のモデルケースがありますということを全国に発信するんです。そうすれば村のPRにもつながるでしょ。昔、“二番じゃダメなんですか”って言った政治家がいたけど、やっぱり一番がいい(笑)」

▲県外から多くの客が訪れるSTELLA SPORTSは西米良を知ってもらうきっかけにもなっている

村の未来へ。官民連携そして移住者

事業家としてさまざまな経験を持つ裕晃紀さんの目に村の未来はどう映っているのだろうか。

「これから先は、民間と行政の連携がうまくいっている自治体が生き残っていきます。西米良はコンパクトな分、そこの連携がすごくやりやすい。村のファンド事業を僕たちが活かして誕生したSTELLA SPORTSなんかはそのモデルケースで、官民が一体となってできあがった施設なんです。僕らだけでの力ではできなかった。村にはまだまだポテンシャルがあるけど、それを活かしきれる村にならなければならない」

その上で、村外から移り住む人たちも今後の西米良の鍵を握っていると言う。

「ここにずっと住んでいると見えなくなってしまうことがあるんです。移住者はそこの気づきを与えてくれるありがたい存在です。村外から移り住んでくれるそんな人たちが、裕福とまではいかないまでも、そこそこは暮らしていけるスキームが必要だと考えています。農業でも林業でもお店でもいいけど、移住者のチャレンジを支援する仕組みが行政にあればと思っています。“自然が好き”“田舎が好き”だけでは食べていけないですからね」

「まちをつくってやろうかと」

さまざまな事業を通じて得た深い見識と村への熱い想い。将来、村のトップとして力を発揮することを見据えているのではと探ってみると。

「その気はまったくない。よく言われるんですけどね」

「でも、一つやりたいことがあるんですよ。10年前から考えている構想が」

裕晃紀さんのことだから、きっと、とてつもないことを考えているんだろうと思ったが、その内容は想像を遥かに超えるものだった。

「山を切り拓いてそこに75歳以上の人だけが移住できるまちをつくりたいんです。1,000人程度が暮らせる規模の。しかも、ただのまちではありません、トヨタがつくろうとしているような超ハイテクのまちにするんです。このまちが実現できれば、村民が増えることで税収がアップします。そして、それ以上に重要なのが、人生の先輩たちの経験、さらには、その人たちの豊かな人脈を村のために活用できること。そうすれば必ず村は活性化します。名付けて『1,000人移住構想』。いつかはやってやろうかと思ってるんですよ」

夢物語のように聞こえるこの構想だが、まちづくりに必要な電気・設備・建築をすべて自社でできる上、資金もすでに準備しているという。そして何より、米良愛ギラギラの裕晃紀さんのことである。近い将来、村に新しいまちができることは想像に難くない。

取材・文:田中聡(宮崎南印刷)
撮影:稲吉良太(宮崎南印刷)