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この村だからこそできた
5人の子育てと25年の家族の歴史①

坂本なぎささん(串間市出身)

宮崎県の最南端・串間市出身の坂本なぎささんは、宮崎市内で働き始めた頃にご主人・哲也さんと知り合い、22歳で結婚と同時に西米良へ移住。25年経った今、5人の子どものうち3人は村を離れ、小学生の子ども2人とご主人との4人暮らし。「5人の子育ては西米良だからこそ」と、村への感謝を語ってくれた。

宮崎県の最南端・串間市出身の坂本なぎささんは、宮崎市内で働き始めた頃にご主人・哲也さんと知り合い、22歳で結婚と同時に西米良へ移住。25年経った今、5人の子どものうち3人は村を離れ、小学生の子ども2人とご主人との4人暮らし。「5人の子育ては西米良だからこそ」と、村への感謝を語ってくれた。

夜10時の『ふるさと』に涙

想像してみてほしい。25年前の西米良村村所には、役場所在地でも国道に信号が1つ。外灯もほとんどなく夜は真っ暗。
移住してきたばかりの若い女性には、衝撃的な光景だった。

「夜10時になると、家に付いている村の防災無線から『ふるさと』の曲が流れてくるんです。村に来たばかりの私は、この曲を聞くと寂しくなって、帰りたくて泣いていました」

▲役場下を通る国道219号

西米良村には非常時の連絡手段として各集落に防災行政無線が設置されているが、かつてはそれを利用して午後5時には『夕焼け小焼け』、午後10時に『ふるさと』が流れていた。ふるさとを離れて来た若い女性にとっては、生まれ育った実家への思いがつのるばかり。

ここで育った村民にとっては当たり前のことが、移住したばかりのなぎささんにとってはそうではなかった。住人同士の繋がりや共通の話題が飛び交うなか、自分だけわからず取り残されたような孤独を感じ、しばらくは馴染めない空気と時間のなかで時を過ごした。

義父母の店を手伝ううちに…

義理の両親である九州男(くすお)さんとサダ子さんが、40年以上村で経営を続けている『ショッピングセンターさかもと』。学校や保育園の給食用食材も仕入れるなど、村の流通のハブ的な存在だ。以前は別の地区で店舗営業していたところ、知り合いに誘われて現在の場所へ。村の常連客はもちろん県外の釣り客、観光客まで立ち寄るため、商品や人はもちろん情報も集まる。

そんなお店の手伝いを始めたなぎささんは、次第に村の様子がわかるようになり、寂しさもいつのまにか消えていた。

「飛び込めたのは、やはり若かったからかなと思うんです。そうじゃなかったら、村の生活を楽しめていなかったかもしれないですね」

現在24歳の長女を筆頭に5人の子どもに恵まれ、両親や周囲のサポートのもと子育てを介して村との接点が増えていった。いつの間にか村のつながりの内側にいる自分がいた。

「感謝しかない」西米良村の教育・子育て支援

なぎささんには、就職・進学し村外で暮らす3人と、今まさに子育て真っ最中の小学生2人の5人の子どもがいる。夫・哲也さんは、村内の観光業から特産品販売、村の委託事業を担う『株式会社 米良の庄』勤務。今年(2022年)1月まで、15年にわたり同社が運営する「西米良温泉ゆた〜と」の支配人を務めており、その間多忙で家庭のことはなぎささんやご両親に任せることが多かったそう。

さぞ大変だったのではと思うが、なぎささんはこう語る。

「この村は教育に手厚くて、子育て支援も充実しています。私が子育てできたのも西米良だからこそ。感謝しかないですね」

実は西米良村の小中学校では、新型コロナ以前から教育のICT導入が進んでいる。現在小学校に通う2人の子たちは、村から学校と家庭にそれぞれ1台ずつタブレット端末が貸与されており、日常的にICTを活用した学校生活を送っている。また、小中学校の合同研究会や国内外とのオンライン交流等も実施しており、昨年12月、西米良村教育委員会は日本教育工学協会による「学校情報化先進地域」に全国で17例目、宮崎県で初めて認定(〜2024年3月まで)。村を挙げての教育支援の充実ぶりに、新しく赴任してきた学校教員は目を丸くするという。

▲小学校で行われたオンライン授業の様子

「中学生が夏に現役東大生からオンラインで学習指導をしてもらえる『村営塾』は、長女の頃から今も続いています。実際に東大生が村へやってきて子どもたちと交流したこともあり、子どもたちにとっては本当に貴重な機会ですよね」

「子は宝」と、よく言葉にしていたという前村長・黒木定藏氏。出産祝い金やすくすく子育て支援金、高校生まで医療費無料、修学旅行や給食費の助成、高校等進学時の奨学資金など、経済的な支援策も充実させてきた。近年若い移住者が少しずつ増えてきている背景として、豊かな自然と人の温かさ、そしてこのような自治体の施策が挙げられる。

移住経験者として
新しい移住者に寄り添いたい

村に若い移住者がやってくると、今度は迎え入れる側としてなぎささんは意識を働かせる。

「わくわくして移住してきても、実際に村の小さなコミュニティに入ると戸惑うこともあって。私はかつて移住者だった者として彼らの気持ちがわかるので、声かけをしながら、寄り添ってあげられたらなあと思っています」

移住の壁を知るなぎささんだからこそ、その壁の向こうにある素晴らしい暮らしを伝えたいという思いは人一倍強い。山も川も身近にあって、魚釣りや山登り、季節ごとに花々が咲く美しい景色など、他では気軽に味わえないような自然体験があふれる西米良村。
なぎささんは今日も感謝の気持ちいっぱいに、何気ない日々の幸せな生活を我が身をもって示している。

取材・文:矢野由里(dig edit & design) 撮影:中山雄太(KOYU DESIGN STUDIO)